最新醫學 72巻2号 
特集 オートファジーと疾患 


要  旨


座談会
 オートファジー研究の現状と問題点

順天堂大学              服部 正孝
大阪大学                 吉森 保
東京大学               水島 昇  (司会)

 座談会の内容
 ・2016年ノーベル生理学・医学賞について
 ・オートファジー研究の最近の動向
 ・ヒトの疾患におけるオートファジーの関与
 ・創薬のターゲットとしてのオートファジー
 など
 
   服部先生       水島先生      吉森先生

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パーキンソン病とオートファジー

斉木臣二*
* 順天堂大学大学院医学研究科神経学 准教授

要  旨
 中脳黒質ドーパミン神経細胞の進行性細胞死を特徴とするパーキンソン病分子病態において,2003年にα-synucleinがマクロオートファジー/シャペロン介在性オートファジーの基質となることが報告されて以降,オートファジー(特にマクロオートファジー)の重要性が注目されている.さらに2008年に家族性パーキンソン病原因遺伝子産物であるparkinとPINK1によるミトコンドリア品質管理機構マイトファジーの制御機構が明らかになり,現在もマイトファジー分子機構は複数の家族性パーキンソン病原因遺伝子産物が関与するパーキンソン病分子病態の重要なトピックとなっている.本稿では,オートファジー・マイトファジーとパーキンソン病分子病態との関連について,家族性パーキンソン病原因遺伝子研究から同定された責任遺伝子産物機能の研究,およびゲノムワイド関連解析(GWAS)に基づくリスク遺伝子産物機能についても言及し,最後にオートファジーと孤発性パーキンソン病分子病態との関連を考察する.

キーワード
パーキンソン病、オートファジー、マイトファジー、α-synucllein

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オートファジー関連神経変性の分子基盤とモデル動物

森下英晃*   水島 昇**
* 東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野 ** 同教授

要  旨
 オートファジーは,細胞内の異常なタンパク質やオルガネラを分解することで細胞内の品質管理を担っている.この作用は脳神経系において特に重要であり,最近オートファジー関連遺伝子に変異を持つヒト脳神経変性疾患が複数発見された.本稿では,それらのオートファジー関連脳神経変性疾患(パーキンソン病以外)の分子基盤について,実際のヒト疾患やモデル動物などから得られた最新の知見を交えながら概説する.

キーワード
オートファジー、細胞内j品質管理、脳神経変性疾患

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WDR45遺伝子変異によるオートファジー関連神経変性症 SENDA/BPAN

村松一洋**  月田貴和子*
* 群馬大学医学部附属病院小児科 ** 同講師

要  旨
 小児期からの非進行性の知的障害と,成人期以降に急速に進行するジストニアおよびパーキンソン様症状,認知症を呈する疾患が,SENDA/BPANとして確立された.SENDA/BPANは,脳に鉄沈着を伴う神経変性症(NBIA)の新たな一型で,全エクソーム解析からWDR45の変異が原因と判明した.WDR45は,生命に必須の細胞内分解機構であるオートファジーに重要な分子WIPI4をコードする遺伝子である.本疾患はオートファジー機能の低下が病態に関与した疾患であり,病態の解明や進行を抑制する治療法開発への展開が必要である.

キーワード
脳内閲賃借神経変性症(NBIA)、オートファジー、知的障害、大脳基底核、WIPI4

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Parkin に依存しないマイトファジー

神吉智丈*
* 新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野 教授

要  旨
 マイトファジーは,オートファジーによる選択的ミトコンドリア分解機構である.パーキンソン病の原因遺伝子産物であるParkinとPINK1は重要なマイトファジー因子であり,精力的に研究されてきた.一方で,ParkinやPINK1がすべてのマイトファジーに必要ではなく,これらに依存しないマイトファジーの理解も重要である.ここでは,Parkinに依存しないマイトファジーに関して概説する.

キーワード
オートファジー、ミトコンドリア、マイトファジー、Parkin

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ミトコンドリアDNAの母性遺伝とオートファジー

佐藤美由紀*1  佐藤 健*2
*1 群馬大学生体調節研究所生体膜機能分野 准教授 *2 同細胞構造分野 教授

要  旨
 ミトコンドリアDNA(mtDNA)は,多くの有性生物種において母性(片親)遺伝することが知られている.モデル生物である線虫C.elegansでは,受精直後に侵入した精子ミトコンドリアとそのmtDNAがオートファジーによって選択的に分解,除去されることが,mtDNA母性遺伝の仕組みであることが分かってきた.本稿では,ハエや哺乳類などその他の生物種での最近の知見と合わせ,精子ミトコンドリアとそのmtDNAの運命について紹介する.

キーワード
精子ミトコンドリア、オートファジー、母性遺伝、C.elegans

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オートファジーとがん ―メカニズムと治療への応用―
池上恒雄*

* 東京大学医科学研究所先端医療研究センター臨床ゲノム腫瘍学分野 准教授
要  旨
オートファジーは細胞の恒常性を保つことでがんの発生を抑制する一方,さまざまな代謝ストレスに置かれたがん細胞の生存を助けることでがんの進行を促進する.また,オートファジーはさまざまな遺伝子変異によりがん細胞で促進あるいは抑制されている.現時点ではオートファジーを特異的に制御する薬剤は見つかっておらず,クロロキンとその誘導体ヒドロキシクロロキンを他の抗腫瘍療法と併用する臨床試験が種々のがんで施行されている.    

キーワード
オートファジー、がん、クロロキン

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オートファジーと Keap1-Nrf2 システム
蔭山 俊*   小松雅明**

* 新潟大学医歯学系分子遺伝学 ** 同教授

要  旨
 オートファジーとKeap1-Nrf2システムは,環境ストレスに応じて発動する細胞防御機構である.前者は細胞毒性を持つ細胞内成分をリソソームで分解することで,後者は抗酸化タンパク質の遺伝子発現を誘導することで細胞を保護する.2つの経路は共通のストレスにより誘導されるが,その相互関連は不明であった.筆者らをはじめ複数のグループにより,Nrf2の標的遺伝子産物でありオートファジーによって選択的に分解されるp62/Sqstm1が,両経路を連携させるキー分子であることが明らかになった.本稿では,オートファジーとKeap1-Nrf2システムを連動させる分子メカニズムと,その破綻とオートファジー欠損マウスの表現型について紹介する.

キーワード
オートファジー、Keap1-Nrf2システム、p62/Sqstml

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非小胞輸送型オートファジーとミクロオートファジー
藤原悠紀*   株田智弘**

* 国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第四部 ** 同室長
要  旨
 リソソームにはさまざまな方法で分解基質が運び込まれる.これまでのオートファジー研究はマクロオートファジーに関するものが圧倒的に多いが,その他のオートファジーに関する研究も広がりを見せつつある.本稿では,シャペロン介在性オートファジー,近年筆者らが発見・報告した新規オートファジーであるRNautophagyおよび DNautophagy,そしてミクロオートファジーについて,その疾患との関連性とともに概説する.

キーワード
シャペロン介在性オートファジー、RNautophagy、DNautophagy、ミクロオートファジー、リソソーム

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細胞内病原体の増殖を制御するオートファジー機構
森田英嗣*

* 弘前大学農学生命科学部分子生命科学科細胞分子生物学分野 准教授
要  旨
 オートファゴソーム形成に関与する分子群が同定されて以来,富栄養条件下で作用する選択的オートファジー機構が,種々の細菌およびウイルスの細胞内増殖に関与していることが明らかになってきた.本稿では,これら細胞内病原体とオートファゴソームの直接的な相互作用から,自然免疫機構,細胞内ストレス応答などを介した間接的な相互作用まで,代表的な細菌感染とウイルス感染を例に挙げて解説する.

キーワード
選択的オートファジー、ウイルス、細菌

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オートファジーと自然免疫応答
木村友則*
* 大阪大学医学部腎臓内科
要  旨
 オートファジーは多くの免疫学的機能を持つが,その1つが自然免疫応答の制御である.オートファジーは,インフラマソームの活性化を抑制することでIL-1βなどの炎症性サイトカインの分泌を抑制する.また,Ⅰ型IFN応答をも抑制する.一方で,オートファジーには非定型分泌経路を介してIL-1β分泌を促進する作用もある.このようにオートファジーは炎症反応を多様に制御しているが,その精密な制御機構や病気とのかかわりが解明されつつある.本稿では,オートファジーによる自然免疫の制御機構を概説しつつ,疾患との関連について議論する.

キーワード
オートファジー、自然免疫、インフラマソーム、インターフェロン、非定型分泌

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LAP(LC3-Associated Phagocytosis)―オートファジー因子を用いる特殊なファゴサイトーシス―
吉井紗織*1  水島 昇*2

*1 バーゼル大学バイオセンター *2 東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野 教授

要  旨
 一部の特殊なファゴサイトーシスにおいて,LC3を含む幾つかのオートファジー因子がリクルートされる.これをLC3-associated phagocytosis(LAP)と呼ぶ.LAPは微細形態学上および分子メカニズムによりオートファジーと区別される.LAPは細胞外物質の効率的な分解,抗原提示,免疫反応の調節などに深くかかわっていると考えられ,自己免疫疾患との関連からにわかに注目を集めている.本稿ではLAPの発見,分子メカニズム,生理学的意義を概説する.

キーワード
LAP、ファゴサイトーシス、オートファジー、LC3、ATG

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病原性原生生物におけるオートファジー関連因子の保存性とその多様な機能
坂本寛和*

* 産業技術総合研究所健康工学研究部門バイオマーカー診断研究グループ

要  旨
 単細胞真核生物(原生生物)に対するゲノム情報の蓄積により,真核生物におけるオートファジー関連(Atg)因子の奇妙な保存様式が明らかにされた.本稿では,病原性原生生物を中心にAtg遺伝子の保存様式とその機能を紹介するとともに,マラリア原虫類で明らかにされつつあるAtg因子群の予想外の機能について議論したい.オートファジーの起源や多様性を理解するうえで,原生生物が持つAtg因子群の機能解析は重要である.

キーワード
原生生物、Atg因子群の機能多様性、マラリア原虫、アピコプラスト

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オートファジーと代謝
竹原徹郎*

* 大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 教授

要  旨
 オートファジーはタンパク質だけでなく,脂肪や炭水化物の代謝にもかかわっている.特に脂肪の分解はリポファジーと呼称され,細胞質内のリパーゼによる分解とは独立した代謝過程になっている.非アルコール性脂肪肝炎では,Rubiconの発現上昇によりオートファジーの後期過程が抑制されている.Rubiconによるオートファジーの抑制は,脂肪蓄積を増強するとともに肝細胞アポトーシスを促進することから,新たな治療標的になる可能性がある.

キーワード
肝臓、リポファジー、非アルコール性脂肪性肝疾患、Rubicon、アポトーシス

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痛みのClinical Neuroscience
(20)慢性疼痛の認知行動療法
堀越 勝

国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター センター長

要  旨
 慢性疼痛は,うつ病と同様に国民に多大な経済的損失をもたらしている.慢性疼痛への治療は薬物療法を中心とした医療的介入が主流であるが,近年,有効な介入法として認知行動療法(CBT)が注目されている.CBTは痛み自体よりも痛みに対する反応(認知,感情,行動,身体)に介入する.反応を客観的に観察し,悪循環を見つけ,認知,または行動変容よりその悪循環を改善する.患者は痛みに奪われた統制を取り戻すことで回復に至る.

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連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の第23回は「大脳半球内面からのアプローチ(2)大脳半球外側壁の白質区画 ―大脳半球外側壁の分離,島葉壁内面の GAT[外包,島周囲束(仮称),前障と下前頭後頭束・鈎状束,ジェンナリ線条],前頭葉・頭頂葉壁内面の GAT,島葉の脳回・脳溝の配置―」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

大脳半球内面からのアプローチ(2)大脳半球外側壁の白質区画 ―大脳半球外側壁の分離,島葉壁内面の GAT[外包,島周囲束(仮称),前障と下前頭後頭束・鈎状束,ジェンナリ線条],前頭葉・頭頂葉壁内面の GAT,島葉の脳回・脳溝の配置―(本文より)

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第53回 2016年度 ベルツ賞受賞論文 2等賞
宿主-腸内細菌叢相互作用

大野博司*1  長谷耕二*2; *1
東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野助教 **1 同教授 *2 同ゲノム医学講座 特任准教授
*3 がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクトプロジェクトリーダー

要  旨
 The gastrointestinal mucosa is always exposed to enormous numbers of commensal microbiota as well as food-borne microorganisms and their products. To prevent translocation of the xenobiotic substances, epithelial cells lining along the mucosal surface serve as the barrier that segregates inside and outside of our body. Furthermore, a large number of lymphocytes accumulate in the intestine to establish the gut immune system. The gut immune system consists of inductive and effector sites. The former is called gut-associated lymphoid tissue (GALT), such as Peyerユs patches and isolated lymphoid follicles. Specialized epithelial M cells localized in follicle-associated epithelium (FAE) covering lymphoid follicles of GALT significantly contribute to mucosal immnosurveillance by taking up and transferring mucosal antigens to antigen-presenting cells underneath FAE. We have identified antigen-uptake receptors expressed by M cells. Among them, GP2 facilitates internalization of type-1-piliated bacteria into Peyerユs patch to induce antigen-specific IgA response. We also found that Spi-B is critical for differentiation of mature M cells. Loss of mature M cells due to the absence of Spi-B resulted in attenuated immune response to Salmonella enterica serovar Typhimurium. These data indicated that M cell-dependent antigen-uptake plays non-redundant role in the induction of immune response to mucosal pathogens. To understand complex host-gut microbiota interaction. We employ メintegrated omics approachモ to tackle the problem. For instance, we have shown that acetate produced by Bifidobacterium spp. enhances epithelial barrier function. This effect is particularly important to suppress translocation of Vero toxin produced by enterohemorrhagic Escherichia coli O157 into the blood stream, and consequently rescues the host animals from infectious death. We also found that butyrate produced by commensal microbiota plays a critical role in development of intestinal regulatory T (Treg) cells. Butyrate facilitates induction of Foxp3, the master transcription factor of Treg cells, through epigenetic modification. Importantly, butyrate prevents the excessive immune responses to commensal microbitota by inducing Treg cells, and thus contributes to the maintenance of immunological homeostasis in the intestine. Given that imbalance of the gut immunity has been implicated in the pathogenesis of various diseases, our findings open up a new avenue on development of new therapeutic approach by taking advantage of modulation of the host-microbe interactions.
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