最新醫學 72巻3号 
特集 ゲノム解析に基づく固形がん個別化治療


要  旨


座談会
ゲノム解析に基づく固形がん個別化治療の現状および Precision Medicine 実現に向けた将来展望

東京大学/国立がん研究センター  間野 博行
東京大学                 油谷 浩幸
新潟大学                若井 俊文  (司会)

 座談会の内容
 ・固形がん個別化治療の現状
 ・ターゲット遺伝子パネルの考え方
 ・遺伝子カウンセリング体制について
 ・Precission Medicineと人工知能
 など
 
   間野先生       若井先生      油谷先生

目次へ戻る



GENETICS AND GENOMICS OF CANCER

Raju Kucherlapati, Bruce Johnson
Haevard medical School

 There have been dramatic advances in our understanding of the genetic and genomic basis of many cancers. This information is helping to develop new drugs and therapies in appropriate patients and the use of this knowledge is improving the outcome of patients with cancer.

目次へ戻る


臓器別個別化治療
 肺がんの Precision Medicine

間野博行*1*2
*1 東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野 教授
*2 国立がん研究センター研究所 所長

要  旨
 がんのゲノム解析研究が進むことにより,直接的な発がん原因遺伝子が次々と同定され,それらに対応した分子標的薬の開発・実用化がもたらされた.かつては共通の化学療法で治療されていた肺腺がんも,ゲノム診断をしたうえで最適の薬剤を選択する時代になったのである.こうしたPrecision Medicineは肺がんにおいて最も進んでおり,網羅的遺伝子診断と合わせてがんの医療システムそのものが大きく変わろうとしている.

キーワード
Driver oncogene、Molecular targeted therapy、Clinical sequencing

目次へ戻る


臓器別個別化治療
個別化治療に向けた肝臓がん・胆道がんのゲノム解析

柴田龍弘*1*2
*1 東京大学医科学研究所ゲノム医科学分野 教授
*2 国立がん研究センターがんゲノミクス研究分野 分野長

要  旨
 大規模ゲノム解読により,肝がんの新規ドライバー遺伝子としてTERT遺伝子が,胆道がんではIDH1/2やFGFR融合遺伝子,BRCA1/2といった治療標的となるゲノム異常が同定された.また免疫チェックポイント阻害薬についても,分子マーカーによる層別化によっては著効する可能性が期待される.こうした分子標的・免疫治療薬の適応においては,各標的分子のゲノム異常により症例を層別化する必要があり,個別化治療に向けたゲノム診断が今後重要である.

キーワード
ドライバー遺伝子、TERT、FGFR融合遺伝子、免疫チェックポイント、分子マーカー

目次へ戻る


臓器別個別化治療
乳がんにおける Precision Medicine

中村清吾*
* 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門 教授

要  旨
 乳がんは,遺伝子プロファイリング技術により,Intrinsic subtype分類(luminal A,luminal B,HER2-enriched,basal-like,normal breast-like)の概念が薬剤選択の基本となっている.最近では,分子標的薬も各種(抗PI3K阻害薬,mTOR阻害薬,抗VEGF抗体,HDAC阻害薬,CDK4/6阻害薬,PARP阻害薬など)開発されている.今後は,患者検体を用いて治療標的となり得る遺伝子異常を横断的に診断するクリニカルシークエンスによって,より高い精度で治療効果を有する薬剤を選択することが期待される.

キーワード
Intrinsic subtype、遺伝性乳がん卵巣がん、Precision Medicine、遺伝子発現プロファイリング

目次へ戻る


臓器別個別化治療
網羅的遺伝子解析がもたらす胃がん個別化治療の可能性
市川 寛*1  永橋昌幸**1  沖 英次*2 吉田和弘*3  北川雄光*4  若井俊文***1
*1 新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野 助教 **1 同講師 ***1 同教授
*2 九州大学大学院医学研究院消化器・総合外科 診療准教授
*3 岐阜大学大学院医学系研究科腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野 教授
*4 慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 教授

要  旨
 The Cancer Genome Atlasによる大規模な網羅的遺伝子解析により,胃がんは4つの分子サブタイプに分類されることが示された.本邦からはがん遺伝子パネルを用いた解析結果が報告された.今後は治療選択における分子サブタイプの意義を明らかにする必要がある.また,がん遺伝子パネルの臨床的な有用性を明らかにすることも重要であり,その先に胃がん個別化治療の新たな展開が期待される.

キーワード
胃がん、The Cancer Genome Atlas、がん遺伝子パネル、個別化治療

目次へ戻る


臓器別個別化治療
婦人科がん領域におけるがんゲノム解析と個別化治療

吉原弘祐*   榎本隆之**
* 新潟大学医歯学総合研究科分子細胞医学遺伝子制御講座(産婦人科) ** 同教授

要  旨
 The Cancer Genome Atlas(TCGA)は,婦人科三大悪性疾患である卵巣がん,子宮体がん,子宮頸がんの統合ゲノム解析を完了している.疾患当たり約500例を対象とした大規模研究であり,その結果は百科事典的にまとめられている.しかし実際に個別化治療を考えると,統合ゲノム解析の結果が婦人科の実臨床に応用された例はいまだなく,橋渡しがうまくいっているとは言えない.本稿では,ゲノム解析の結果から実臨床に応用可能な情報を抽出し,整理することとする.

キーワード
The Cancer Genome Atls(TCGA)、BRCA1/2、PARP阻害薬

目次へ戻る


日本の現状
SCRUM-Japan ―がん治療開発を指向した産学連携臨床ゲノムデータシェアリングの取り組み―
土原一哉*

* 国立がん研究センター先端医療開発センターゲノムTR分野 分野長

要  旨
がん分子標的療法の開発のためには,細分化する患者集団に合わせた大規模なゲノムスクリーニングが必要である.国内200以上の医療機関と15の製薬企業が参加して数千例規模の進行肺がん,消化器がん症例の標的遺伝子変異を検索し,各種の治験に導出するSCRUM-Japanは,世界的にもユニークな試みとして注目されている.

キーワード
分子標的薬、バイオマーカー、データベース、疾患レジストリ

目次へ戻る


日本の現状
がん遺伝子診断外来 ―院内完結型網羅的がん遺伝子検査(CLHURC 検査)を用いたクリニカルシークエンスの臨床応用―
林 秀幸*1  小松嘉人*2  秋田弘俊*3 西原広史**1

*1 北海道大学病院がん遺伝子診断部特任助教 **1 同特任教授 *2 同腫瘍センター 診療教授 *3 同腫瘍内科 教授

要  旨
 がん遺伝子解析に基づく個別化治療(Precision Medicine)は,がんに対する新たな治療戦略として注目されている.現在,その有用性を検証する多くの臨床試験が実施されているが,すでに欧米では日常臨床に導入されつつある.北海道大学病院では2016年4月より,本邦初の院内完結型がん遺伝子診断専門外来を開設し,医療サービスとしての網羅的がん遺伝子検査を実践している.本稿では我々の取り組みを紹介する.

キーワード
がん遺伝子診断外来、個別化治療、網羅的がん遺伝子検査、次世代シークエンサー

目次へ戻る


日本の現状
クリニカルシークエンスの臨床実装 ―臨床的解釈と治療への応用―
武藤 学*

* 京都大学大学院医学研究科腫瘍薬物治療学講座 教授

要  旨
 我が国では,クリニカルシークエンスの精度管理や実施体制の整備がまだされておらず,臨床現場における運用に関してはまだ始まったばかりである.当院では,我が国で初めて精度管理されたクリニカルシークエンスをがん医療に臨床実装するとともに,その結果に基づいた治療も実施している.本稿では,がんクリニカルシークエンスの臨床実装における結果の解釈と治療への応用に関して解説する.

キーワード
クリニカルシークエンス、CLIAラボ、OncoPrimeTM、臨床実装、Precision Oncology

目次へ戻る


日本の現状
セントラル IRB を生かした多施設ゲノム解析スクリーニングと個別化治療の確立
工藤敏啓*   佐藤太郎**

* 大阪大学大学院医学系研究科先進癌薬物療法開発学寄附講座 助教 ** 同教授

要  旨
 臨床研究を行う際は倫理審査が必須である.しかし,臨床研究件数の増加とともに倫理審査委員会の負担が増大しており,倫理審査委員会の集約化,すなわちセントラルIRBの必要性が高まってきた.一方で,個別化治療のさらなる発展のためゲノム医療に期待がかかるが,その実現には多施設による大規模なスクリーニングも必要となる.限られたリソースの有効活用が必須である現在,セントラルIRBがゲノム医療に果たす役割は大きい.

キーワード
倫理審査委員会、セントラルIRB

目次へ戻る


米国の現状
米国における Precision Medicine ―NCI-MATCH の進捗,Foundation Medicine の現状,Circulating Tumor DNA を用いたバイオマーカー研究―
坂東英明*1  武部直子*2
*1 国立がん研究センター東病院消化管内科
*2 Cancer Therapy Evaluation Program, National Cancer Institute

要  旨
米国では,国立がん研究所(NCI)が中心に,がん領域におけるPrecision Medicineの実現可能性をみる大規模な臨床試験(NCI-MATCH)が開始されており,国家をあげたPrecision Medicineへの取り組みがなされている.さらにFoundation Medicine社のようなベンチャー企業が遺伝子解析サービスを大規模に行っており,これをもとに民間レベルでも急速にPrecision Medicineが普及している.検査の技術も確実に進歩しており,血漿由来のcirculating tumor DNAを用いたcapture-based target next generation sequencing(NGS)が,既存の腫瘍検体を用いたNGS に数年後には置き換わる勢いである.

キーワード
Precison Medicine、NCI-MATCH、Foundation Medicine、Circulating tumor DNA

目次へ戻る


米国の現状
MicroRNA の乳がん個別化治療への応用
川口 耕*   高部和明**

*  ニューヨーク州立大学バッファロー校ロズウェルパーク癌研究所 ** 同教授

要  旨
 2000年代以降,乳がんのマイクロアレイ解析などによるゲノムDNAレベルでのサブタイプ分類は,その診療を一変させた.近年,タンパク質をコードしない非コードRNAの中でも,特に22塩基以下からなるmicroRNAが生体で重要な機能を果たしていることが明らかになり,さまざまな疾患で注目されている.乳がんにおいてもmicroRNAに関する報告は2005年以降増えており,今後さらなる解明が必要な分野の1つである.本稿では,特に乳がんにおけるmicroRNA研究の現状とmicroRNAを用いた個別化治療の可能性について,今後の展望を踏まえて概説する.

キーワード
MicroRNA、乳がん、個別化治療

目次へ戻る


将来展望
クリニカルシークエンスにかかわる日米の医療制度比較
池田貞勝*1  植竹宏之*2

*1 東京医科歯科大学腫瘍センター *2 同総合外科学分野 教授

要  旨
 近年,がん患者の網羅的遺伝子解析,いわゆるクリニカルシークエンスが行われるようになってきた.しかしながら,検査の品質保証や薬剤へのアクセス,また遺伝学的検査の結果による差別などの問題にどのように対処していくのかは,現在議論されている状況である.これらの点に,クリニカルシークエンスをいち早く手掛けている米国ではどのように対処しているのかまとめてみたい.

キーワード
クリニカルシークエンス、品質保証、適応外使用

目次へ戻る


将来展望
Precision Medicine の実現に向けたバイオインフォマティクスの役割と提言
奥田修二郎*

* 新潟大学大学院医歯学総合研究科バイオインフォーマティクス分野 准教授

要  旨
 次世代シークエンサーの登場により,がん細胞の持つ変異を網羅的に決定することができるようになった.このがんゲノム分野では,DNAの処理から変異の検出,その意味づけに至るまで計算機が多用される.これらの計算機での解析全般を担うバイオインフォマティクスという分野は,今後の医療を大きく変えようとしているPrecision Medicineの実現において,非常に重要な役割を担う.

キーワード
バイオインフォマティクス、クラスタリング、人工知能、データベース

目次へ戻る


将来展望
Precision Medicine の医療費を考える ―ゲノム解析に基づく個別化治療の費用対効果分析―
赤澤宏平**1  齋藤翔太*2  亀山仁史*3 中島幸彦*1

*1 新潟大学医歯学総合病院医療情報部 **1 同教授
*2 新潟大学大学院医歯学総合研究科情報科学・統計学分野
*3 新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野 准教授

要  旨
 がん診療におけるPrecision Medicineの導入は,治療効果が期待できる患者とそうでない患者を高い確度で治療前に予測できるという点で,画期的な医療と言える.本稿では,こうした治療選択による国民医療費の削減額を定量的に評価する試みを例示した.また,進行大腸がん患者の費用対効果分析をマルコフモデルにより行い,QOLを考慮した延命にかかる費用を推定した.

キーワード
国民医療費、進行大腸がん、費用対効果分析、医療経済、遺伝子変異解析

目次へ戻る


痛みのClinical Neuroscience
(21)痛みを中心にした感覚情報処理と精神機能およびその障害
西原 真理
  愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 特任教授/精神科学講座
竹内 伸行  愛知医科大学医学部精神科学講座

要  旨
 感覚と精神機能・精神障害との関係について,痛覚をテーマに概観した.感覚情報は末梢神経と中枢,精神機能を結びつけ,双方向に影響し合っている.その中でも痛覚は他の感覚と異なり,第一次感覚野が明らかにされていないなどの特徴を有している.また,痛みの分類では,脳機能障害や心理的要因による修飾という新しい分け方を述べ,さらに機能性障害としての慢性痛をどうとらえるべきかという考え方についても示した.

目次へ戻る



連載
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造

 脳の肉眼解剖学に40年間携わってこられた金沢医科大学・篠原治道先生による誌面講義の最終回は「大脳半球内面からのアプローチ(3)大脳半球外側壁の白質と灰白質の配置」です。
 開業医、研修医、専門医の方々にもご興味やご関心をもって頂けるような内容となっています。

大脳半球内面からのアプローチ(3)大脳半球外側壁の白質と灰白質の配置(本文より)

目次へ戻る



連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第42回は京都大学ウイルス・再生医科学研究所・前田 道之 先生による「がん遺伝子」です。

目次へ戻る



トピックス
SGLT2 阻害薬の最新の話題
堀井三儀*   寺内康夫**

* 横浜市立大学医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学 ** 同教授

要  旨
 SGLT2阻害薬は腎からの尿糖排泄促進というユニークな作用機序を持つ糖尿病治療薬であり,血糖降下作用のほか,体重減少,血圧低下作用などの多面的効果を併せ持つ.心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者にエンパグリフロジンを標準治療に上乗せしたEMPA-REG OUTCOME試験において,エンパグリフロジンは複合心血管イベントを14%,腎症の新規発症・増悪を39%それぞれ有意に減少させ,その臓器保護効果および機序に注目が集まっている.

キーワード
SGLT2阻害薬、EMPA-REG OUTCOME試験、臓器保護効果

目次へ戻る


トピックス
新規転写伸長制御因子 Med26 の腫瘍性疾患への関与
高橋秀尚*

* 北海道大学大学院医学研究科生化学講座医化学分野 講師

要  旨
 遺伝子発現の制御機構の破綻は,がんや白血病などの腫瘍性疾患を引き起こす要因となる.最近,腫瘍関連の多くの遺伝子領域で,RNAポリメラーゼⅡが転写開始後に一時停止しており,その一時停止が転写伸長因子によって解除され,腫瘍関連遺伝子の発現が促進されることが,腫瘍発症要因の1つであることが分かった.本稿では,転写伸長制御因子Med26が腫瘍性疾患の発症メカニズムにどのようにかかわるのかについて述べる.

キーワード
転写伸長、RNAポリメラーゼ、混合型急性白血病

目次へ戻る


トピックス
ロボットスーツ HAL による神経難病のリハビリテーション
遠藤寿子*   中島 孝**

* 国立病院機構新潟病院神経内科 ** 同副院長

要  旨
 ロボットスーツHALは,生体電位駆動型の装着型ロボットであり,治験において緩徐進行性の神経・筋難病8疾患に対するHALによる歩行運動療法の有効性が証明され,新規の医療機器として承認され,2016年9月よりHAL医療用下肢タイプの運用が開始された.HALを安全に,より効果的に使用するためには,HALの動作原理を理解し,添付文書や適正使用ガイドを参照しながら適切に使用する必要がある.また,将来的には治療薬との複合療法により,効果を最大化していくことが期待される.

キーワード
Hybrid assisstive limb、サイバニクス治療、Cybernic treatment、医療機器、医師主導治験

目次へ戻る