最新醫學 72巻4号 
特集 One Healthの視点からみた感染症の現状と対策


要  旨


座談会
One Healthの視点からみた世界と日本の現状

千葉科学大学            吉川 泰弘
酪農学園大学              田村 豊
東京医科大学             松本 哲哉  (司会)

 座談会の内容
 ・One Healthの概念と歴史
 ・One Healthの現状と問題点
 ・動物由来感染症の対策
 ・今後の方向性
 など
 
   田村先生       松本先生      吉川先生

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One Healthの概念e

村田浩一*
*日本大学生物資源科学部 教授

要  旨
 One Healthは,ヒトと動物と環境との間における健全性を表す新たな概念である.その基本形はすでに古代ギリシャ時代からあったが,動物由来の新興感染症が世界的に流行拡大した危機的現状に対応するために,医学や獣医学のみならず異分野との連携による生態学的健康の回復と維持を目的として展開されている.One Healthの実現は,ライフスタイルの見直しが大きな鍵になるであろう.

キーワード
環境、生態圏、ひとつの健康、保全医学、野生動物

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獣医学とOne Healthのかかわり

丸山総一*
* 日本大学生物資源科学部 教授

要  旨
 獣医学の活動分野は,動物の愛護・臨床,動物衛生,公衆衛生,野生動物の保護・管理,バイオメディカルなどと極めて多岐にわたっている.しかしながら,急激な環境変化,ペットや野生動物がかかわる人獣共通感染症,新興・再興感染症の出現などに対して,One Healthの概念で各分野や国が連携・協力する必要が生じてきた.本稿では,獣医学がどのような形でOne Healthにかかわっているのかを概説する.

キーワード
獣医学、新興感染症、人獣共通感染症、野生動物、One Health

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野生動物が保有するウイルスを対象とする研究

佐々木道仁* 大場靖子** 澤 洋文***
*  北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター分子病態・診断部門 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 人獣共通感染症を克服するためには,病原微生物の自然宿主,自然界における存続機構と伝播経路を解明し,先回り対策を講ずることが必要である.遺伝子検出技術の進歩・普及に伴い,自然界に存在するウイルスに関する知見が急速に増加している.本稿では上記の目的に基づいて,我々が実施している野生動物の保有するウイルスを対象とした研究を紹介する.

キーワード
人獣共通感染症、伝播経路、新規ウイルス、次世代シークエンサー

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我が国における動物由来感染症対策
山田章雄*

* 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 獣医公衆衛生学研究室 教授

要  旨
 我が国は比較的動物由来感染症の発生の少ない国であると言われている.しかし,地球人口の増加やグローバル化が進むことで,日本においても動物由来感染症に起因する新興感染症を含むさまざまな感染症の脅威に対峙せねばならざるを得なくなった.感染症法の施行をはじめとする感染症対策全般の推進により,リスクは低減されているとは言うものの,動物由来感染症対策にはいまだ多くの解決すべき課題が残されている.

キーワード
人獣共通感染症、新興感染症、顧みられない人獣共通感染症、感染症法

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環境におけるレジオネラの存在と感染予防策

倉 文明*
* 国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室(細菌第一部併任)

要  旨
 レジオネラ症は,日本で年間1,500例を超え,入浴施設のほかに,冷却塔,給湯/給水系,加湿器,園芸,さらには噴水,歯科治療,キャンピングカー等の多様な生息環境を通じて感染しうる.エアロゾル・粉塵を吸わないようにマスク着用,レジオネラの宿主となるアメーバを増やさないこと,増殖した微生物を含むエアロゾル・粉塵の少ない環境,これらヒト,宿主原生動物,環境の全体的な衛生の観点から,感染事例と対策をまとめた.消毒法として,塩素濃度消毒のほか,モノクロラミン消毒,低濃度オゾン消毒についても紹介した.ATP検査法により,水を清浄に保つ日常の衛生管理についても紹介した.

キーワード
レジオネラ、遺伝子の塩基配列をもとにした型別、感染源、モノクロラミン、APR生物発光

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One Healthの視点からみた耐性菌の問題点
浅井鉄夫*

* 岐阜大学大学院連合獣医学研究科 教授

要  旨
抗菌性物質は,医薬品,動物薬,農薬として利用され,ヒトや動物の健康と,畜産物や農産物の安定生産に寄与してきた.しかし,医療や獣医療で薬剤耐性菌が抗菌性物質による治療効果に影響するという問題を生じ,地球規模での交通網の発展により,新たな薬剤耐性菌が国内にも侵入する機会を増やした.抗菌性物質を利用する各分野で薬剤耐性菌の実態を明らかにし,分野を越えたOne Healthの視点で対策が取り組まれる.

キーワード
薬剤耐性菌、One Health、選択、伝播

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フィロウイルスの生態とヒトへの伝播経路
高田礼人*

* 北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 教授

要  旨
 フィロウイルス科に属するエボラウイルスおよびマールブルグウイルスは,ヒトを含む霊長類に重篤な出血熱を引き起こす.フィロウイルスが発見されてから約半世紀がたつが,その自然宿主,分布域およびヒトへの伝播経路など依然として不明な点が多い.しかし近年,霊長類以外の動物の感染や新種のウイルスの発見など,フィロウイルスの生態に関する新しい知見が得られてきた.本稿では,フィロウイルスの生態に関する研究を紹介する.

キーワード
フィロウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、自然宿主

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蚊媒介ウイルス感染症の現状と対策
忽那賢志*

* 国立国際医療研究センター病院国際感染症センター

要  旨
 近年,蚊媒介性感染症の流行は公衆衛生上の問題となっている.特に,デング熱,チクングニア熱,ジカウイスル感染症は流行地域を拡大し続けており,熱帯・亜熱帯地域だけでなく,先進国でもアウトブレークが報告されている.現時点ではこれらの感染症に対する有効なワクチンはなく,防蚊対策を徹底する以外に個人での予防策はない.医療従事者は早期診断・早期防蚊対策指導を心掛けるようにしたい.

キーワード
蚊媒介性感染症、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症

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One Healthの視点からみた高病原性鳥インフルエンザへの対策
迫田義博*1*2*3

*1 北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室 教授
*2 北海道大学国際連携研究教育局 教授
*3 国際獣疫事務局(OIE)高病原性鳥インフルエンザ レファレンスラボラトリー

要  旨
 H5またはH7亜型のA型インフルエンザウイルスのうち,ニワトリに対して致死的な病原性を示すものを高病原性鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ.常在国である中国や東南アジアでは,このウイルスが鳥からヒトに感染し,死亡例も多数報告されている.しかし,このウイルスはヒトからヒトへの感染が成立しないので,飼養されているニワトリやアヒルへの対策を徹底すれば,ヒトへの感染リスクはなくなる.つまり,家禽における感染源対策の徹底がOne Health実現の要である.

キーワード
高病原性鳥インフルエンザ、人獣共通感染症、ヒト、コントロール、パンデミック

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狂犬病の現状と課題
井上 智**1 伊藤睦代*2 野口 章*1
*1 国立感染症研究所獣医科学部 **1 同室長 *2 同ウイルス一部

要  旨
 狂犬病は典型的な動物由来感染症(zoonosis,人獣共通感染症)であり,ヒトは通常1~3ヵ月の潜伏期を経て発症し,急性,進行性,致死性の脳炎を併発して10日以内に死亡する.幸いに,曝露後予防接種を感染の直後から開始すれば発症を防ぐことができ,狂犬病発生地で動物に咬まれた場合には速やかな医療対応が必要である.狂犬病は感染源動物の特定や対応で,医系と獣医系の協働による“One Health”が求められる感染症である1).

キーワード
狂犬病、動物由来感染症、咬傷による感染、曝露後予防接種、医系と獣医系の協働

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One Healthの視点からみた寄生虫感染症
安達圭志*1 濱野真二郎*2

*1 山口大学大学院医学系研究科免疫学 *2 長崎大学熱帯医学研究所寄生虫学分野 教授

要  旨
 世界保健機関が重要視する人獣共通感染症の病原体は約200種あり,その中でも寄生虫感染症は大きな位置を占めている.多くの人獣共通寄生虫疾患では,ヒト,動物,そしてそれらを取り巻く環境に依存して伝播が成立するため,その対策にはそれぞれの衛生関係者の連携が必須となる.本稿では,ヒト,動物,環境の衛生は不可分であるというOne Healthの概念に基づいた人獣共通寄生虫感染症の対策について解説する.

キーワード
人獣共通寄生虫感染症、クリプトスポリジウム、ヒト、ウシ、水道

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AMRアクションプランが目指すもの -One Healthの視点から-
具 芳明*

* 東北大学病院総合感染症科 講師

要  旨
 薬剤耐性菌の広がりは世界的な公衆衛生上の問題となっている.医療領域での抗菌薬使用や耐性菌の拡散だけでなく,動物に対する抗菌薬使用や薬剤耐性菌による環境汚染もその背景にあることが分かってきた.そのため,薬剤耐性菌対策にはこれらを総合的にとらえたOne Healthアプローチが必要となる.日本政府の発表した薬剤耐性(AMR)アクションプランでもOne Healthアプローチが重視され,分野を越えた協働が求められている.

キーワード
AMRアクションプラン、薬剤耐性菌、One Healthアプローチ

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重症熱性血小板減少症候群における医学と獣医学との協働
高橋 徹*

*  山口県立総合医療センター血液内科 診療部長

要  旨
 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は,2011年に中国から報告されたSFTSウイルスによるマダニ媒介性新興感染症である.2013年1月に日本初のSFTS患者が確認されたが,日本の医療現場でほとんど知られていなかったこの患者の発見には当初から獣医学研究者のかかわりがあった.日本のSFTS研究はヒト医学と獣医学との協働で進展しており,One Healthの概念を実践する良いモデルケースと言える.

キーワード
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、SFTSウイルス、マダニ、One Health

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グローバル化時代におけるOne Heathと国際協力
森田公一*

* 長崎大学熱帯医学研究所 所長

要  旨
 あらゆる分野で加速度的にグローバル化が進展している今日,One Healthアプローチは国際的な枠組みの中で多分野の人々が協調的に進めていくことが不可欠である.特に人獣共通感染症あるいは国際的に脅威となる感染症の突発的流行に対しては,グローバルな視点から国際協力(連携と支援)を強化していくことが必要である.我が国でも,この国際協力を後押しする研究資金や国際感染症緊急支援チームなどが整備・強化されている.

キーワード
グローバリズム、グローバル化、国際緊急援助隊感染症対策チーム、SATREPS、国際協力

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痛みのClinical Neuroscience
(22)痛みと脳機能・脳器質変化
岩下成人
  滋賀医科大学医学部附属病院 ペインクリニック科 学際的痛み治療センター 講師
福井 聖   滋賀医科大学医学部附属病院 ペインクリニック科 学際的痛み治療センター 病院教授

要  旨
 脳機能画像法のfMRI,PET,rs-fMRI,MRS,形態学的画像診断法のVBMの手法と,その代表的な研究成果について概説する.慢性疼痛とは,過去の痛み体験により,脳内の機能的変化,解剖学的・神経化学的変化が生じ,実際に局所の痛み刺激とは別に,脳内で情動的な痛み経験が繰り返されている状態,また中枢性鎮痛機構がうまく働いていない状態であると推察される.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第43回は南大阪病院・中西 宣文 先生による「情報伝達物質としての一酸化窒素」です。

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トピックス
卵円孔開存に伴う奇異性脳塞栓症の病態と治療法
金澤英明*

* 慶應義塾大学医学部循環器内科 特任講師

要  旨
 原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞は,全虚血性脳卒中の約25%を占め,その原因として潜在性の心房細動による心原性脳塞栓症や卵円孔開存を介した奇異性脳塞栓症の頻度が高いと推測されており,再発予防に向けた治療戦略が重要である.本邦においては,奇異性脳塞栓症を発症した卵円孔開存に対するカテーテル閉鎖術は承認されていないが,最近,海外の無作為化臨床試験において,薬物療法と比較して卵円孔開存に対するカテーテル閉鎖術の脳梗塞再発予防効果が示され,パラダイムシフトの時を迎えている.本稿では,最近注目を浴びている卵円孔開存に伴う奇異性脳塞栓症の病態とその治療法について概説する.

キーワード
卵円孔開存、奇異性脳塞栓症、ESUS、経カテーテル的卵円孔閉鎖術、MPLATZER® PFO Occulider

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トピックス
線維細胞による肺がんに対する血管新生阻害薬の耐性メカニズム
後東久嗣* 西岡安彦**

*  徳島大学大学院医歯薬学研究部呼吸器・膠原病内科学分野 講師 ** 同教授

要  旨
 がんの増殖には血管新生が必須であるため,これを標的とした血管新生阻害薬の臨床応用が進んでおり,すでに幾つかは実臨床で良好な効果を発揮している.しかしその効果は限定的で,これらの薬剤に対する耐性現象が臨床現場で問題となっている.最近我々は,がんの血管新生阻害薬耐性にかかわる新たな細胞として線維細胞を同定した.今後,血管新生阻害薬耐性克服に向けたさらなるメカニズムの解明,バイオマーカーの開発が望まれる.

キーワード
肺がん、線維細胞、血管新生、薬剤耐性

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特報
平成28年度井村臨床研究賞受賞記念論文
日本人における高血圧の特徴と最適治療法の研究

猿田享男*

* 慶應義塾大学 名誉教授


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総説
将来の医療におけるバイオシミラーの意義
山中 寿*1  落合大樹*2  田邊康祐*3

*1 東京女子医科大学 教授,附属膠原病リウマチ痛風センター所長,東京女子医科大学病院リウマチ科診療部長
*2 アイ・エム・エス・ジャパン株式会社
*3 ファイザー株式会社エッセンシャルヘルス事業部門PEHメディカル・アフェアーズ統括部

要  旨
 基礎医学の進歩と技術革新により「バイオ医薬品」の開発と臨床応用が進展し,多くの疾患で優れた治療が可能になったが,その一方で国民医療費の増加を加速させている.バイオシミラーは医療費の適正化につながる選択肢の1つであるものの,医療関係者や患者に十分な理解が広がっているとは言い難い.医療従事者への正しい理解の普及や,適切な使用推進を目的とした政策の立案・実行などの積極的な環境整備が望まれる.

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