最新醫學 72巻6号 
特集 パーキンソン病 -進化する診断と治療-


要  旨


座談会
パーキンソン病病態解明の進歩と疾患修飾療法

順天堂大学     服部 信孝
大阪大学      望月 秀樹
京都大学      髙橋 良輔  (司会)

 座談会の内容
 ・家族性パーキンソン病からみたパーキンソン病の
   病態解明の現状
 ・αシヌクレインを標的とした核酸医療
 ・パーキンソン病のDMT実現に向けての課題
 など
 
   望月先生       髙橋先生      服部先生

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基礎
大脳基底核の機能とドパミン神経の役割

金子 鋭*
* 関西医科大学神経内科学講座 准教授

要  旨
 大脳基底核は,大脳皮質からの入力を線条体で受け,望ましい入力と望ましくない入力を取捨選択する機能を担っている.大脳基底核は運動機能だけではなく連合機能や情動機能も担っており,ドパミンの低下は運動症状のみならず意欲低下や不安などの非運動症状の一因となっている.報酬刺激によって生じる一過性のドパミン放出は直接路の賦活により報酬学習を成立させるが,忌避刺激によるドパミン放出の一時的な抑制は間接路の賦活により忌避学習を成立させる.

キーワード
大脳基底核、ドパミン、直接路、関節路

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基礎
パーキンソン病の動物モデル

山門 穂高*
* 京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座 臨床神経学

要  旨
 治療法の開発に,優れたモデル動物は欠かせない.パーキンソン病において古典的な毒物モデルは対症薬の開発に大きな役割を果たしてきた.近年,疾患修飾療法を視野に入れた疾患モデルが作製されており,本稿では家族性パーキンソン病遺伝子に基づいた遺伝子改変モデル,さらには最近開発されたαシヌクレイン伝播モデルまでを,その特徴・用途とともに概説する.

キーワード
パーキンソン病、動物モデル、αシヌクレイン(αsyn)、疾患修飾療法

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基礎
αシヌクレイン細胞間伝播と疾患修飾療法

長谷川 隆文*
* 東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経内科学分野 准教授

要  旨
 パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患において,従来,異常凝集タンパク質の蓄積とこれに続く神経変性は,個々の神経細胞においてそれぞれ独立して起こるものと推定されてきた.一方,異常凝集タンパク質がプリオンのように細胞間を伝播し病変を拡大させるという細胞非自律的な病態機序が近年提唱され,病態概念が大きく変化してきている.プリオン様伝播は疾患修飾療法のターゲットとしても注目を集めている.

キーワード
パーキンソン病、αシヌクレイン、レヴィ小体、細胞間伝播、疾患修飾療法

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基礎
iPS細胞を用いたパーキンソン病研究
三嶋 崇靖* 坪井 義夫**

*  福岡大学医学部神経内科学教室 ** 同教授

要  旨
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた疾患研究は,患者の生体内の変化を実験室内で知るために有用な手法である.現在,神経疾患を中心にiPS細胞を用いた研究報告数が増加している.本稿では,iPS細胞を用いたパーキンソン病研究を中心に述べる.

キーワード
iPS細胞、パーキンソン病、神経変性疾患、神経分化誘導

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診断
パーキンソン病の臨床診断の精度向上のためのSPECT検査

澤本 伸克*
* 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻近未来型人間健康科学融合ユニット 教授

要  旨
 パーキンソン病と臨床診断されている患者が病理学的にもパーキンソン病であるのは,発症5年以内の早期例ではおおむね8割から9割程度ではないかと推測される.本稿では,パーキンソン病の臨床診断の精度を向上させるために一般的に用いられている画像検査の中で,123I?ioflupaneと,123I?meta?iodobenzylguanidine(MIBG)を用いた核医学検査について概説する.

キーワード
123I-ioflupane、123I-MIBG、ドパミン、ノルアドレナリン、パーキンソン症候群

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診断
Movement Disorder Societyの新たな診断基準 ―パーキンソン病とProdromal Parkinson?s Disease―
前田 哲也** 岩岡 和博* 高橋 健太* 寺山靖夫***

* 岩手医科大学医学部内科学講座神経内科・老年科分野 ** 同特任准教授   *** 同教授

要  旨
 パーキンソン病の世界標準である英国パーキンソン病協会ブレインバンクの臨床診断クライテリアをはじめ,既存の診断クライテリアは策定からの時間がたち,近年のエビデンスと整合性がとれない事象が増えてきた.Movement Disorder Societyは2014年に診断クライテリアの見直しを提案し,2015年に新たな臨床診断クライテリアを公表した.同時に,運動症状出現以前のパーキンソン病,すなわちprodromal Parkinson?s diseaseに対するリサーチクライテリアも公表した.進化するパーキンソン病の新たな臨床診断の幕開けである.

キーワード
パーキンソン病、Prodromal Parkinson's disease、Movement Disorder Society、
臨床診断クライテリア、リサーチクライテリア

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診断
日本におけるパーキンソン病リスクコホート研究:J?PPMI
村田 美穂*

* 国立精神・神経医療研究センター病院 病院長

要  旨
 パーキンソン病の疾患修飾療法を見据えて,パーキンソン病等シヌクレイノパチーの強いリスク集団であるREM睡眠行動障害(RBD)患者を対象とした多施設共同前向きコホート研究を実施中である.ドパミントランスポーター(DAT)SPECT,脳MRI,運動機能および心理機能の経年評価とともに血液・髄液等の採取を進め,長期経過観察により,運動症状発症前の細胞変性の経過とそのバイオマーカーを明らかにする.

キーワード
パーキンソン病、REM睡眠行動障害、シヌクレイノパチー、運動症状発症前症状、前向きコホート研究

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治療
新しい薬物治療
髙橋 牧郎*

* 大阪赤十字病院神経内科 部長

要  旨
 パーキンソン病の治療はL?ドパが臨床応用され進歩したが,その半減期が短いことや早晩ジスキネジアやウェアリングオフなどの運動合併症が出現することが課題である.運動合併症予防にはドパミンの持続的投与・受容体刺激が重要であり,血中濃度の安定するドパミンアゴニストが開発された.ドパミンの分解を抑制するMAO?B阻害薬,COMT阻害薬やその合剤,L?ドパ・カルビドパ経空腸的持続投与も可能となり,ドパミンの薬効安定に貢献している.本邦では非ドパミン薬も上市され,ドパミン抵抗性の症状や神経保護効果が期待される.将来的には疾患修飾薬が望まれるが,本稿では今後の新規薬剤の展望も含めて概説する.

キーワード
L-ドパ、L-ドパ・カルビドパ経腸ゲル投与(LCIG)、アコーディオンピル、持続皮下注、非運動症状

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治療
脳深部刺激療法(DBS)―最近のトピックス―
中島 明日香*1 下 泰司**1*2 大山 彦光**1 伊藤 賢伸*3 梅村 淳*2*4 服部 信孝***1

*1  順天堂大学医学部脳神経内科 **1 同先任准教授 ***1 同教授
*2  同運動障害疾病病態研究・治療講座 先任准教授 *3  同メンタルクリニック准教授
*4  同脳神経外科 准教授

要  旨
 パーキンソン病の治療法として,L?ドパを含めた薬物治療とともに,可逆的な機能的外科治療である脳深部刺激療法(DBS)が有効とされている.パーキンソン病におけるDBSのターゲットには,主に視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)があり,どちらも運動合併症に対して効果がある.DBSは長期の薬物治療による進行期のウェアリングオフやジスキネジアといった運動合併症や一部の非運動症状にも有効で,生活の質(QOL)を保つことも可能である.

キーワード
パーキンソン病、脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)、視床下核(STN)、淡蒼球内節(GPi)

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治療
遺伝子治療
村松 慎一*1*2
*1 自治医科大学内科学講座神経内科学 特命教授 *2 東京大学医科学研究所遺伝子・細胞治療センター

要  旨
 脳内で遺伝子を安全に長期間発現できるウイルスベクターを使用して,遺伝子治療の臨床研究が実施されている.①ドパミン合成にかかわる酵素の遺伝子を被殻に導入する方法,②抑制性神経伝達物質GABAの合成酵素の遺伝子を視床下核に導入する方法,③神経栄養因子の遺伝子を被殻に導入する方法,という3種類のプロトコールがある.このうち,被殻でドパミン合成を行う方法は運動症状の改善が期待できる.

キーワード
アデノ随伴ウイルス(AAV)、芳香族アミノ酸脱炭素酵素(AADC)、ドパミン持続刺激

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治療
パーキンソン病に対する細胞移植治療
菊地 哲広* 髙橋 淳**

*  京都大学iPS細胞研究所臨床応用部門神経再生研究分野 ** 同教授

要  旨
 現在のパーキンソン病に対する主な治療である薬物療法,脳深部刺激療法では,障害された中脳ドパミン神経細胞自体を修復することはできない.失われたドパミン神経細胞を補充する治療として,細胞移植治療の研究が進められている.近年,iPS細胞は細胞移植治療の細胞源として注目されており,臨床応用に向けた研究が進められている.

キーワード
パーキンソン病、ドパミン神経、iPS細胞、細胞移植

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治療
デュオドーパ®
樽野 陽亮*

* 京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座臨床神経学

要  旨
 高齢化社会の進展とともにパーキンソン病患者数は増加を続け,さらに抗パーキンソン病薬による良質な治療の普及によって「進行期パーキンソン病」患者は今後も増加が見込まれる.神経内科医は,進行期パーキンソン病患者に対して,適切なデバイス補助療法の適応を判断し,専門医への紹介を行うことが求められる.本稿では,2016年9月に本邦で新たに上市された,デバイス補助療法の1つデュオドーパRについて,その背景とともに紹介する.

キーワード
パーキンソン病デュオドーパ®、、DBS、CDS

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治療
ニューロリハビリテーション
市川 忠*

* 埼玉県総合リハビリテーションセンター神経内科 副センター長

要  旨
 大規模疫学研究により,活動度が高い群でのパーキンソン病発症リスクが逓減することが明らかである.リハビリテーションや運動での介入でパーキンソン病患者の運動機能改善が報告されている.機序としては,BDNF等の環境因子と神経可塑性の改善が示唆される.また,自己運動認知の改善を図るLSVTも広く実施されている.パーキンソン病リハビリテーションには,認知機能への影響,効果残存期間,有効な種目,強度,頻度等,解明すべき課題がある.

キーワード
パーキンソン病、リハビリテーション、BDNF、可塑性、運動認知

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痛みのClinical Neuroscience
(24)気象痛
佐藤  純
  愛知医科大学学際的痛みセンター客員教授

要  旨
 慢性痛が低温や低気圧などの気象要素の変化で悪化することを「気象痛」と言う.筆者は,人工的な低気圧と低温に曝露すると慢性痛モデル動物の痛み行動が増強し,慢性痛罹患者では天気の崩れで訴える症状が再現することを実証してきた.また,低温で痛みが増強するのは温度受容器が過敏になることが原因であり,気圧変化で痛みが増強するメカニズムには内耳の気圧検出システムが関与することを明らかにした.さらに,慢性痛では気象変化に対する自律神経系のストレス反応が亢進していることが原因の1つであることも示唆した.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第45回は京都大学大学院理学研究科准教授・森   哲 先生による「動物行動学の確立と進展」です。

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トピックス
2型自然リンパ球によるアレルギー制御
古賀 諭*1 引地侑希*1*2 茂呂和世**1**2

*1  独立行政法人理化学研究所RIKEN統合生命医科学研究所センターIMS自然免疫システム研究チーム
**1 同チームリ?ダー   *2  横浜市立大学大学院生命医科学研究科 **2 同客員准教授

要  旨
 多くのアレルギー性疾患はこれまで,ヘルパーT細胞であるTh2細胞を介した獲得免疫が重要な役割を果たすと考えられ,さまざまな研究が行われてきた.しかしながら近年,自然免疫に働くリンパ球(innate lymphoid cell:ILC)の1つである2型自然リンパ球(group 2 ILC:ILC2)の重要性が明らかになったことで,アレルギー性疾患におけるILC2の役割が注目されてきている.

キーワード
自然リンパ球、IL-33、ステロイド抵抗性、IFN、IL-27

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トピックス
CTOS法を用いた大腸がん細胞培養と医療応用
井上 正宏*

* 大阪国際がんセンター生化学部 部長

要  旨
 我々が開発したCTOS法は,細胞?細胞間接着を維持したままスフェロイドを調製・培養する方法で,大腸がんのがん細胞の培養に適している.従来の樹立がん細胞株にない患者がんの特性,特に分化型腺がんの特徴を保持していることから,極性転換など新たな標的の発見や,抗体薬の開発など新たな創薬のプラットフォームになる可能性がある.腫瘍から大量にCTOSを調製できることから,初代培養細胞を用いた薬剤スクリーニングにも応用できる.

キーワード
腎臓、小胞体ストレス、臓器間ネットワーク、慢性腎臓病、臓器老化

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特報
平成28年度井村臨床研究奨励賞受賞記念論文
レプチンを用いた肥満症,糖尿病に対する新しい治療法の開発

日下部 徹*1*2

*1 ?国立病院機構京都医療センター臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部研究室長
*2 ?京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンター特定准教授

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