最新醫學 72巻8号 
特集 肺高血圧症 -診断と治療の新展開-


要  旨


座談会 治癒を射程内においた肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療

岡山医療センター       松原 広巳
国立循環器病研究センター  大郷 剛
杏林大学           佐藤 徹  (司会)

 座談会の内容
 ・現在のPAHの予後
 ・PAH治療の革新しついて
 ・PAHの治癒
 ・理想のPAH治療 
など
 
   大郷先生      佐藤先生        松原先生

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肺高血圧症の治療目標は肺動脈圧の低下である(臨床的考察)

松原 広己*
* 国立病院機構岡山医療センター循環器内科 臨床研究部長

要  旨
 肺高血圧症は肺動脈圧高値で定義される疾患であり,その治療ゴールは肺動脈圧の低下であるべきであろう.しかし,肺動脈性肺高血圧症に関しては,単に右心不全を回避することのみが治療ゴールとして広く受け入れられている.本稿では,肺動脈圧低下を肺高血圧症の治療ゴールとすることの妥当性を,臨床的な根拠を挙げつつ概説する.

キーワード
肺循環、血管拡張薬、リモデリング、生命予後

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肺動脈性肺高血圧症の治療目標は肺動脈圧の低下である
―肺動脈圧低下による肺動脈のリバースリモデリング(基礎的考察)―

阿部 弘太郎*
* 九州大学病院循環器内科

要  旨
 本邦における肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療薬の使用方法は,単剤投与よりも治療初期から複数の治療薬をほぼ時間差なく併用するupfront combination therapyが主体となっている1).このupfront combination therapyにより,進行したPAH患者の予後とQOLの改善が見込まれるが,明確な治療指標とその目標値が示されていない.前稿の岡山医療センター松原医師らのグループは,高用量エポプロステノールも含めた多剤併用療法により肺動脈圧の低下を認めた症例の予後が極めて良好であることを報告した2).この事実をもとに,PAHを数多く治療している本邦の施設の大多数において,肺動脈圧を重要な治療指標として採用している.一方で,これまでの欧米のPAHガイドラインでは,肺動脈圧を治療指標として推奨していない3).患者から血行動態計測と同時に肺組織を経時的に採取することは,倫理的な観点から実施困難であり,肺動脈圧低下によるPAHに特徴的な進行性の閉塞性肺血管リモデリング病変の可逆性(リバースリモデリング)について検証することは不可能である.本稿では,筆者らが行った基礎研究の結果から,血行動態ストレス軽減による肺動脈のリバースリモデリングの可能性について解説する.

キーワード
肺動脈性肺高血圧症、血行動態ストレス、モデル動物、リバースモデリング

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プロスタグランジン系注射薬はこう使うと予後・QOLが改善する

古川 明日香* 田村 雄一**
*  国際医療福祉大学三田病院肺高血圧症センター ** 同准教授

要  旨
 肺動脈性肺高血圧症は,進行性の疾患であり,かつては治療法がなく極めて予後不良であったが,治療の幅が広がるとともに予後は大きく改善した.肺血管拡張薬として,本邦ではプロスタサイクリン(PGI2)製剤5種,エンドセリン受容体拮抗薬3種,PDE5阻害薬2種,sGC刺激薬1種が使用可能である.これらの中でPGI2製剤は,経口,静注,皮下注,吸入とさまざまな投与経路の薬剤が存在するのが特徴である.本稿では非経口PGI2製剤について,適応や我々が有効と考えている使用法などをエポプロステノールを中心に解説する.

キーワード
プロスタサイクリン注射製剤、エポプロステノール、トレプロスチニル、肺動脈性肺高血圧症、遠隔診療

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肺高血圧症の治療抵抗性を病理学的に考察する
千葉 知宏*1 植田 初江*2

*1 杏林大学医学部病理学教室 講師
*2 国立循環器病研究センター病理部 部長

要  旨
 血管拡張薬による治療によって肺高血圧症の予後は著明に改善したが,一部の肺動脈性肺高血圧症(PAH)や肺静脈閉塞症(PVOD)などは治療抵抗性を示す.PVODはもとより,治療抵抗性のPAHでは静脈病変の合併が示唆されている.PAH,PVODの血管病理を概説し,血管拡張薬に対する治療抵抗性について考察した.

キーワード
肺動脈性肺高血圧症、肺静脈閉塞症、血管病理学、血管拡張薬、治療抵抗性

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肺動脈性肺高血圧症基礎研究の進歩

中村一文** 江尻健太郎* 赤木 達*
*  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学 ** 同准教授

要  旨
 3系統の肺動脈性肺高血圧症に対する特異的治療薬は,基礎研究を経て臨床応用されている.これらについて最近も進行している基礎研究を含めて概説する.さらに,薬剤封入ナノ粒子を用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)について紹介する.

キーワード
一酸化窒素、プロスタサイクリン、エンドセリン、ナノ粒子

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Upfront Combination Therapyにより肺動脈性肺高血圧症の予後は格段に改善した
大郷 剛*1*2

*1 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門肺循環科 医長
*2 同肺高血圧先端医学研究部 特任部長

要  旨
 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,肺血管抵抗上昇により右心不全,死亡を来す予後不良の疾患である.PAHの治療薬としてプロスタサイクリン,一酸化窒素,エンドセリンの3系統の治療薬が登場した.PAHの治療として,臨床的な効果の目標を定めて投薬を併用していく逐次併用療法(goal?oriented sequential combination therapy)が行われてきたが,特に重症例には効果が不十分であり,より良い治療法が模索されてきた.近年,治療初期から併用療法を行う初期併用療法(upfront combination therapy)の血行動態,予後への著明な改善効果が報告されている.Upfront combina-tion therapyはエビデンス,経験においてまだ乏しく,長期効果,合併症への対処やコストベネフィットを含めてさらなる検討が必要である.

キーワード
肺動脈性肺高血圧症、Upfront combination therapy、PAH治療薬、併用療法

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膠原病性肺高血圧症の基礎研究,診断,治療の進歩
川口 鎮司*

* 東京女子医科大学リウマチ科 臨床教授

要  旨
 膠原病性肺高血圧症(CTD?PH)は,全身性強皮症(SSc)に伴う肺高血圧症(PH)とそれ以外のCTD?PHでは病態も治療法も違ってくる.SSc以外のCTD?PHでは肺動脈炎が主な病態であり,免疫抑制薬による治療が必要である.一方,SSc?PHは多因子が複合的に関与しており,どこに主な病変があるかによって治療方法が変わってくる.新規の強力な治療薬が使用可能となり,生命予後は今後改善していくことが期待できる.

キーワード
肺高血圧症、膠原病、全身性強皮症、免疫抑制療法、肺血管拡張薬

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先天性心疾患による肺動脈性肺高血圧症でも欠損孔閉鎖が有用である
赤木 禎治*

* 岡山大学病院循環器内科 准教授

要  旨
 肺高血圧特異的薬剤の登場により,肺動脈性肺高血圧症を伴う先天性短絡性心疾患の治療は大きく変わりつつある.また,新たに登場したカテーテル治療の導入により,人工心肺を使用しない低侵襲治療が可能となった.両者を組み合わせることによって,新たな治療戦略が可能となってきている.左右短絡型心疾患に伴う肺高血圧症,特に成人期に認められる頻度の高い心房中隔欠損症(ASD)を中心に,新しい治療戦略を解説する.

キーワード
先天性心疾患、カテーテル治療、Treat and repair、肺血管作動薬

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肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の診断・治療はここまで進歩した
小川 愛子*

* 国立病院機構岡山医療センター臨床研究部分子病態研究室

要  旨
 肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症は,肺静脈や毛細血管の狭窄や閉塞による肺血管抵抗の上昇により,肺高血圧症を呈する疾患である.肺動脈性肺高血圧症とは異なり,肺高血圧症治療薬による肺水腫の危険性があることなどから,肺高血圧症診療において注意を要する.近年,発症要因に関する新たな知見が報告され,疾患の理解が深まりつつある.また,日本では厚生労働省難治性疾患克服研究事業の指定難病の1つとなった.

キーワード
肺高血圧症、高分解能CT、肺水腫、肺高血圧症治療薬

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左心疾患による肺高血圧症の診断・治療 ―最近の動向―
波多野 将*1*2
*1 東京大学大学院医学系研究科循環器内科
*2 同重症心不全治療開発講座 特任准教授

要  旨
 左心疾患による肺高血圧症(PH?LHD)は,肺高血圧症(PH)の原因疾患として最も頻度が高いものである.PH?LHDには肺血管抵抗が高値(≧3Wood単位)および/もしくは「肺動脈拡張期圧?肺動脈楔入圧」によって定義されるdiastolic pressure gradient(DPG)が上昇(≧7mmHg)しているものと,そうでないものがある.前者は前・後毛細血管性PHが合併した状態と考えられている.PH?LHDの治療は背景にある左心疾患の治療が中心となるが,DPGが高値の場合には,前毛細血管性PHの病態も関与していると考えられ,一部では肺血管拡張薬の有効性にも期待が持たれている.PH?LHDに対する安易な肺血管拡張薬の投与は決して推奨されないが,急性肺血管反応試験などにより安全性・有効性を確認したうえでの投与は検討に値するものと考えられる.

キーワード
左心疾患による肺高血圧症(PH-LHD)、Distolic pressure gradient(DPG)、
Isolated post-capillary PH(Ipc-PH)、Combined post-capillary and pre-capillary PH(Cpc-PAH)、
潜在的PH-LHD

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症における基礎研究と発症メカニズム
坂尾 誠一郎*

* 千葉大学医学部附属病院呼吸器内科 講師

要  旨
 IL–5は,喘息で見られる好酸球性気道炎症の重要な調節分子である.その産生細胞は主としてTh2細胞であるが,2型自然リンパ球の関与も注目されている.抗IL–5抗体は,通常の治療で好酸球性気道炎症が制御し得ない重症喘息に対して,急性増悪の減少,1秒量の改善,ステロイド投与量の抑制,QOLの改善効果などを示す.抗IL–5抗体療法は,好酸球性炎症型の重症喘息における,特異性が高くかつ効果的な治療として,その普及が期待される.


キーワード
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)、器質化血栓、肺動脈血管内皮細胞

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肺疾患による肺高血圧症に対する肺血管拡張薬の有効例は存在する
田邉 信宏*

* 千葉大学大学院医学研究院先端肺高血圧症医療学寄附講座 教授

要  旨
 欧米のガイドラインによれば,肺疾患に伴う肺高血圧症に対する肺血管拡張薬の使用は,エビデンスの不足とガス交換障害悪化等の可能性から推奨されていない.一方,重症肺高血圧症を呈する肺疾患では,病理学的にも臨床的にも肺動脈性肺高血圧症と類似した表現型が存在する.肺血管拡張薬,ことにホスホジエステラーゼ5阻害薬が肺血行動態やQOL,予後を改善する可能性があるが,前向き試験での検証が必要とされる.

キーワード
肺血管拡張薬、ガス交換、肺高血圧症、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症はカテーテル治療が非常に有用である
伊波 巧*

* 杏林大学医学部第二内科

要  旨
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は予後不良の疾患であり,根治術は肺動脈内膜摘除術であるが,末梢型CTEPH例などの手術困難例は10?40%存在する.2001年にカテーテル治療の効果に関して報告されたが,合併症の多さからその後しばらく広まらなかった.2012年以降,本邦で改良された経皮的肺動脈形成術(BPA/PTPA)の著明な治療効果と安全性が報告され,新たな治療選択肢の1つとして注目されている.

キーワード
慢性血栓塞栓性肺高血圧症、経皮的肺動脈形成術

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痛みのClinical Neuroscience
(26)神経内科疾患と慢性疼痛
星山 栄成
  獨協医科大学神経内科学内 講師
辰元 宗人  獨協医科大学神経内科学内 准教授
堀江 淳一  獨協医科大学神経内科
椎名 智彦  獨協医科大学神経内科
平田 幸一  獨協医科大学神経内科 主任教授

要  旨
 神経内科疾患において慢性疼痛を来す疾患は数多く存在し,その原因もさまざまである.神経内科における日常診療の中で最も多く聞かれる慢性疼痛は,頭痛が挙げられる.頭痛の中では片頭痛が最も受診者が多く,頭痛発作は日常生活に影響を及ぼすため,片頭痛の理解は重要である.本稿では片頭痛を中心に,神経内科領域における慢性疼痛を来す疾患とその対処法について述べていく.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第47回は京都大学名誉教授・泉 孝英 先生による「Karl Landsteiner ―20世紀の生んだ医の巨人―」です。

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トピックス
ウイルス性出血熱に対する特異的治療法開発研究 ―新しいエビデンス―
西條 政幸*

* 国立感染症研究所ウイルス第一部 部長

要  旨
 ウイルス性出血熱には,エボラウイルス病とマールブルグ病,ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱が含まれる.2014?2015年に西アフリカで大規模なエボラウイルス病流行が発生した.また,日本ではウイルス性出血熱の1つと考えられる重症熱性血小板減少症候群が流行していることが確認された.ウイルス性出血熱に対する抗ウイルス薬による特異的治療法はなかった.しかし,ウイルス性出血熱に対する抗ウイルス薬,抗体製剤による治療法開発や臨床研究が進んでいる.

キーワード
ウイルス性出血熱、エボラウイルス病、重症熱性血小板減少症候群、抗ウイルス薬、ファビピラビル

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トピックス
家族性アミロイドポリニューロパチーの臨床と治療
安東 由喜雄*

* 熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野 教授

要  旨
 家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)には4つのサブタイプがあるが,トランスサイレチン(TTR)が遺伝的に変異したTTR型FAPが圧倒的に多い.諸臓器へのアミロイド沈着によって,末梢神経障害,自律神経系の障害,心,腎,消化管,眼,脂肪組織や腺などの臓器障害を起こす予後不良の常染色体優性遺伝を呈する全身性アミロイドーシスの一型である.肝移植が本疾患の進行を遅延させる唯一の治療法であったが,最近TTRの4量体を安定化させる低分子化合物による治療法がニューロパチーの進行を遅延させることが判明したほか,遺伝子サイレンシングによるTTRの発現抑制治療の国際治験が進行している.研究レベルでは,抗体治療やさまざまな低分子化合物による治療法の有効性が示されており,本疾患は治療不可能な神経難病から治療可能な疾患に変貌を遂げつつある.

キーワード
遺伝性アミロイドーシス、トランスサイレチン、ポリニューロパチー、アミロイドーシス、アミロイドアンギオパチー

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