最新醫學 72巻10号 
特集 甲状腺臨床の最前線


要  旨


座談会 甲状腺学の基礎と臨床 ―現状と今後の展開―

伊藤病院        吉村 弘
日本医科大学      杉谷 巌
群馬大学        山田 正信  (司会)

 座談会の内容
 ・甲状腺の疫学
 ・甲状腺機能異常
 ・甲状腺がん
 ・分子標的薬
 ・甲状腺と放射線 
など
 
   杉谷先生      山田先生        吉村先生

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基礎
T3による甲状腺刺激ホルモンβ遺伝子の転写抑制 ―負の調節は解明できるか?―

黒田 豪* 松下 明生* 佐々木 茂和**
*  浜松医科大学第二内科 ** 同講師

要  旨
 T3の標的遺伝子の5?6割は活性化され,ほかは抑制される.後者の数は少なくないが,機序は今も不明である.その代表である甲状腺刺激ホルモン(TSH)β遺伝子では,「抑制は活性化の鏡像」という前提に基づき「負のT3応答配列」が想定されてきた.しかし,その後の報告は必ずしもこの前提を支持しない.我々は,T3結合甲状腺ホルモン受容体(TR)がTSH産生細胞の分化決定因子GATA2の機能を阻害するというtethering機序を提唱している.

キーワード
甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモン受容体(TR)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ネガティブフィードバック、GATA2

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基礎
遺伝子発現制御を介さない甲状腺ホルモンの作用

林 良敬*
* 名古屋大学環境医学研究所 准教授

要  旨
 甲状腺ホルモン核内受容体の一部は細胞質,細胞膜(脂質ラフト)やミトコンドリアに局在し,甲状腺ホルモンの結合により,遺伝子発現制御を介さずに,細胞内シグナル伝達系を活性化して,細胞の生存促進などに関与することが明らかになってきた.甲状腺ホルモンはしばしば幹細胞から神経細胞や膵島細胞への分化誘導プロトコールにおいて用いられるが,このような細胞生存促進作用が重要な役割を果たしているのかもしれない.

キーワード
PI3K-AKT-mTOR経路、NO-cGMP-PKG経路、カベオラ、骨格異形成、
RTHα(T3Rα遺伝子の変異による甲状腺ホルモン不応症)

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基礎
TRHの発見から半世紀 ―新たな展開―

渋沢 信行* 山田 正信**
*  群馬大学大学院医学系研究科内分泌代謝内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 TRHは,1969年に単離,構造決定された最初の視床下部ホルモンである.主に視床下部室傍核より産生分泌されたTRHは,下垂体前葉TSHの合成,放出を促進する.TRHは視床下部以外の中枢神経系,さらに膵臓や生殖臓器を含む全身に広く存在している.これまでの多くの研究により提示されたさまざまな生体における機能を検証し,新たな発見を得るために,動物モデルを利用したさらなる研究が求められる.

キーワード
視床下部-下垂体-甲状腺系(H-P-T系)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ノックアウトマウス

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バセドウ病と甲状腺機能異常
バセドウ病のモデル動物
永山 雄二*

* 長崎大学原爆後障害医療研究所分子医学研究分野 教授

要  旨
 バセドウ病は刺激型抗TSH受容体抗体によって生じる自己免疫疾患であるため,この受容体(特にAサブユニット)での免疫でマウスに抗体産生および疾患発症を誘導できる.ただしタンパク質の扱いが難しいため,遺伝子を用いた免疫法が普及し,アデノウイルスあるいはin vivo electroporationを併用したDNAワクチンがよく使われている.バセドウ病自体に加え,眼症のモデルも最近報告されている.さらに最近,自然発症モデルも開発され,バラエティに富んだモデルがそろったことになる.病態解析・新規治療法開発などへ期待が持たれる.

キーワード
甲状腺、甲状腺刺激ホルモン受容体、バセドウ病

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バセドウ病と甲状腺機能異常
バセドウ病と遺伝 ―GWAS研究,抗甲状腺薬による無顆粒球症の関連遺伝子―

赤水 尚史*
* 和歌山県立医科大学内科学第一講座 教授

要  旨
 バセドウ病の感受性遺伝子の探索は,ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって大きく進展している.従来から知られているCTLA?4とHLA以外に,バセドウ病特異的なものとしてTSH受容体の関連が確認された.さらに,IL2RA,FCRL3,PTPN22などとの関連が見いだされた.さらに,抗甲状腺薬による無顆粒球症の感受性遺伝子が明らかにされた.

キーワード
バセドウ病、疾患感受性遺伝子、ゲノムワイド関連解析(GWAS)、HLA、無顆粒球症

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バセドウ病と甲状腺機能異常
甲状腺クリーゼのエビデンスに基づく治療法 ―日本におけるガイドライン作成について―
磯崎 収*1 佐藤 哲郎*2

*1 東京女子医科大学第二内科 准教授
*2 群馬大学大学院医学系研究科内分泌代謝内科学 講師

要  旨
 本邦において新規に甲状腺クリーゼの診断基準が作成され,全国調査を行い,その修正と治療ガイドラインが作成された.その特徴はチアマゾール(MMI)による治療の推奨であり,無機ヨウ素薬および副腎皮質ステロイド薬の同時投与も推奨された.頻脈に対しては,β1選択性の高いβ遮断薬が推奨された.重症患者や治療抵抗性患者では治療的血漿交換や体外循環による治療も推奨され,救命率を高めるため包括的治療のアルゴリズムが作成された.

キーワード
甲状腺クリーゼ、抗甲状腺薬、無機ヨウ素薬、副腎皮質ステロイド薬、β遮断薬

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バセドウ病と甲状腺機能異常
妊娠と甲状腺疾患
荒田 尚子*

* 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科 部長

要  旨
 近年,チアマゾールの催奇形性が明らかになったことで,妊娠可能年齢のバセドウ病の管理に混乱が生じている.器官形成期のチアマゾール曝露を避けることと,妊娠前から妊娠中の甲状腺機能のコントロールを両立させることが重要である.また,2017年3月に,米国甲状腺学会によって妊娠中と産後の甲状腺疾患の診断と管理に関するガイドラインが改訂され,甲状腺機能低下症の管理指針がより使いやすいものになった.

キーワード
チアマゾール、奇形症候群、妊娠、バセドウ病、甲状腺疾患、甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎

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不適切TSH分泌症候群
甲状腺ホルモン不応症の発症機構から診断アルゴリズム,TRα異常まで
石井 角保*

* 群馬大学大学院医学系研究科内科学講座内分泌代謝学分野

要  旨
 甲状腺ホルモン不応症(RTH)βは,甲状腺ホルモン受容体(TR)β遺伝子変異によりホルモンに対する標的臓器の反応性が減弱する症候群である.甲状腺ホルモンが過剰であるにもかかわらず甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑制されない,不適切TSH分泌症候群を呈する.下垂体TSH産生腫瘍との鑑別が重要である.さまざまな症状を呈し得るが,無治療や対症療法で良い症例が多い.近年TRα遺伝子異常症が報告されたが,表現型はRTHβと異なる.

キーワード
甲状腺ホルモン不応症、不適切TSH分泌症候群、甲状腺ホルモン受容体β遺伝子変異、
ドミナントネガティブ作用、甲状腺ホルモン受容体α遺伝子変異

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不適切TSH分泌症候群
TSH産生下垂体腫瘍の発症機構は解明されたか?
堀口 和彦* 山田 正信**

*  群馬大学大学院医学系研究科内分泌代謝内科学 ** 同教授

要  旨
 TSH産生下垂体腫瘍の原因としては,胚細胞変異の多発性内分泌腫瘍におけるMen1遺伝子異常,そして体細胞変異としては甲状腺ホルモン受容体の変異が数例で報告されている.しかし,多くの散発性TSH産生下垂体腫瘍の発症機構については全く不明であった.私たちは,TSH産生下垂体腫瘍における遺伝子異常を網羅的に解析し,原因となりうる体細胞性DNAバリアントと染色体コピー数の変化を明らかにした.両者には共通の遺伝子も含まれ,機能的な検討も含めて今後のさらなる検討が期待される.

キーワード
TSH産生下垂体腫瘍、遺伝子体細胞変異、遺伝子コピー数変化、全エクソン解析、コピー数多数解析

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甲状腺がん
甲状腺がんの遺伝子変異
光武 範吏*
* 長崎大学原爆後障害医療研究所放射線災害医療学 准教授

要  旨
 甲状腺がんはさまざまな組織型に分類されるが,分化がんのうち乳頭がんでは主としてMAPK経路が,濾胞がんではPI3K?AKT経路が遺伝子変異によって活性化することが,これらのがん発生に大きな役割を果たしていると考えられる.乳頭がんではBRAFV600EやRET/PTC,濾胞がんではRAS変異やPAX8/PPARγの頻度が高い.分化がんでは,悪性度の高い腫瘍には加えてTERTプロモーターの変異が見られるようになる.低分化がん,未分化がんでは上記2つのシグナル伝達経路上の変異が重複するようになり,さらにTERTプロモーター,TP53の変異も急増する.

キーワード
甲状腺がん、遺伝子変異、BRAF、RET/PTC、RAS

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甲状腺がん
甲状腺がん取り扱いの変遷 ―ガイドラインにみる日米関係―
宮 章博* 宮内 昭**

*  医療法人神甲会隈病院外科 副院長 ** 同院長

要  旨
 米国甲状腺学会(ATA)の成人の甲状腺結節と甲状腺分化がんの取り扱いガイドラインが2015年に改訂され,甲状腺切除範囲にリスクに応じた片葉切除の採用と,甲状腺微小乳頭がんに対する非手術経過観察の選択肢の採用という大きな変更点があったので,我が国の甲状腺腫瘍診療ガイドライン(2010年版)や当院の微小がんの非手術経過観察に関する報告と対比しながら紹介する.

キーワード
甲状腺乳頭がん、微小乳頭がん、非手術経過観察、ガイドライン

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甲状腺がん
甲状腺がんの分子標的薬の最前線
岡村 律子* 杉谷 巌**

*  日本医科大学内分泌外科病院 講師 ** 同教授

要  旨
 進行性,転移性の甲状腺がんへの薬物療法は皆無であったが,近年甲状腺がんへのさまざまな分子標的薬(MKI)が開発されている.第Ⅲ相臨床試験の良好な成績により,本邦では,レンバチニブ,ソラフェニブ,バンデタニブが保険適応となった.病勢制御にはMKIの長期投与が必要となるが,MKI投与初期には重篤な副作用が出現することがある.MKI投与の適切な患者選択,開始のタイミング,副作用管理には,医師,コメディカルによるチーム医療が重要である.

キーワード
甲状腺がん、分子標的薬治療、ソラフェニブ、レンバチニブ、バンデタニブ

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甲状腺がん
放射線と甲状腺 ―チェルノブイリと福島の事実から―
山下 俊一*1*2

*1 長崎大学原爆後障害医療研究所放射線災害医療学研究分野 教授 *2 福島県立医科大学 副学長

要  旨
 チェルノブイリと福島での原発事故後,「放射線と甲状腺」が注目されているが,被ばく線量の違いから両者の放射線リスクは大きく異なる.大量被ばくによる組織反応では,細胞死,臓器不全による晩発性甲状腺機能低下が問題となるが,本稿では低線量被ばくで問題となる確率的影響,すなわち甲状腺発がんリスクを中心に紹介する.チェルノブイリ原発事故後の線量依存性の放射線発がんリスクと,福島原発事故以降のマス・スクリーニング効果による過剰診断との違いを正しく理解する必要がある.

キーワード
放射線被ばく、甲状腺がん、チェルノブイリ、福島

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痛みのClinical Neuroscience
(28)痛みと自律訓練法
芦原 睦 
  中部労災病院心療内科部長
宮﨑 貴子  中部労災病院心療内科

要  旨
 心身医学療法の1つである自律訓練法(AT)の適用範囲は広く,心療内科における不安・緊張を有するさまざまな疾患に用いられる.当科では27年間にわたり,集団ATを自覚症状の改善と向精神薬の減量・離脱を目的として施行してきた.本稿では,ATおよび集団ATの概要,集団ATの効果や線維筋痛症(FM)への適応を述べ,痛みとATの関連について検討することを目的とした.

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連載
ノーベル賞と医学の進歩・発展

 68巻10号からノーベル賞の対象となった業績やその業績が現在どのような恩恵をもたらしているかについて、各領域の専門家の先生方に詳しいご解説をお願いしております。

第49回はJT生命誌研究館館長・中村 桂子 先生による「DNAの二重らせん構造発見」です。

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トピックス
急性肺塞栓症治療のUp?to?Date
中村 真潮*

* 陽だまりの丘なかむら内科 院長

要  旨
 急性肺塞栓症(PE)治療の第1選択は抗凝固療法であり,日本では未分画ヘパリンとワルファリンが使用されてきた.近年,従来薬より有用性が高い非経口Xa阻害薬フォンダパリヌクス,ならびに直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のエドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンが,日本でもPE治療に使用できるようになった.特にDOACは,より長期の再発予防,入院期間の短縮,がん患者への有用性など多くの可能性を持っており,大変期待されている.

キーワード
急性肺塞栓症、抗凝固療法、血栓溶解療法、直接作用型経口抗凝固薬

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トピックス
先進医療:HER2陽性乳房外パジェット病に対する抗HER2抗体治療
舩越 建*

* 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室 専任講師

要  旨
 乳房外パジェット病は皮膚科で扱う希少がんの1つであるが,治療の研究や開発が遅れている現状がある.乳がんに似た特性を持つことから,乳がんに適応のある治療法が周回遅れで用いられており,その差は開く一方である.今回,乳房外パジェット病において,世界で初めての臨床試験を実施するため,一般診療においては適応外のために用いることができない抗HER2抗体に着目した.試験の背景と概要についてまとめた.

キーワード
乳房外バジェット病、HER2、トラスツズマブ、ドセタキセル、先進医療

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