最新醫學 73巻1号 
特集 糖尿病診療の最前線


要  旨


鼎談
 糖尿病学の軌跡と今後の展望

自治医科大学             葛谷 健
愛知学院大学             成瀬 桂子
横浜市立大学             寺内 康夫 (司会)

 座談会の内容
 ・日本における乙尿病学の軌跡
 ・女性糖尿病医・研究者の育成
 ・糖尿病治療・研究の地域格差と国際化
 ・これからの展望

 
   成瀬先生       寺内先生        葛谷先生

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基礎
ヒト膵島研究の最前線

白川 純* 寺内 康夫**
*  横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科 ** 同教授

要  旨
 糖尿病は,インスリン産生細胞である膵β細胞の機能障害により,もしくは膵β細胞障害とインスリン抵抗性との組み合わせにより発症することから,膵β細胞を置換もしくは再生させることが糖尿病の進展を抑制する鍵となる.ヒト膵島と実験動物の膵島の違いが明らかになってきており,糖尿病研究におけるヒト膵島を用いた研究の重要性はより増してきている.本稿ではヒト膵島を用いた糖尿病研究について,最近の動向を概説する.

キーワード
2型糖尿病、ヒト膵島、膵β細胞

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基礎
インスリン抵抗性研究の最前線 ―肝におけるインスリン抵抗性―

太田 康晴*1 谷澤 幸生*2
*1 山口大学医学部分子代謝制御学講座 准教授   
*2 山口大学大学院医学系研究科病態制御内科学講座 教授

要  旨
 2型糖尿病患者では,インスリンによる肝糖産生の抑制が破綻しており,これが肝インスリン抵抗性の本態である.脂肪肝は肝インスリン抵抗性の重要な因子であり,SGLT2阻害薬,チアゾリジン薬,インクレチン関連薬などの糖尿病治療薬の一部は,脂肪肝の治療薬としても期待されている.肝グリコーゲン代謝は,主にグルコース,インスリン,グルカゴンにより調節されているが,特にグルカゴン受容体アンタゴニストは,糖新生やグリコーゲン分解抑制を介して糖尿病を改善させる薬剤として期待される.

キーワード
インスリン抵抗性、脂肪肝、肝グリコーゲン代謝、肝糖産生、肝糖新生

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基礎
中枢-臓器連関による膵β細胞制御機構 ―肝臓-膵β細胞間神経ネットワーク―

今井 淳太*1 片桐 秀樹*2
*1 東北大学病院糖尿病代謝科 講師 *2 東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野 教授

要  旨
 肥満などでインスリン抵抗性が生じると,膵β細胞は代償性に増殖し,インスリン分泌を増加させることによって血糖値の上昇を抑制する.しかし,この代償性反応がどのような機序で起こるのかについては不明な点が多かった.我々は以前,このメカニズムとして,肝臓からのシグナルが内臓神経求心性線維→中枢神経→迷走神経遠心性線維を介して膵β細胞増殖を起こすことを明らかにした.さらに最近,この神経ネットワークにおいて,膵臓に分布する迷走神経からのシグナルが肥満の際に膵β細胞増殖を起こす分子メカニズムを明らかにしたので概説する.

キーワード
迷走神経、FoxM1、アセチルコリン、PACAP、VIP

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基礎
インクレチン研究の最前線
平野 勉*

* 昭和大学医学部内科学講座糖尿病代謝内分泌内科学部門 教授

要  旨
 インクレチン研究の分野で注目されている2つのトピックスを紹介する.
 (1)インクレチンが膵島で生成され,パラクリン的にインスリン分泌を制御していることが明らかとなった.腸ホルモンとしてのインクレチンよりも血糖制御に及ぼす影響が大きい可能性がある.
 (2)インクレチン関連薬のGLP-1受容体作動薬が心血管疾患を抑制することが,2つの大規模臨床試験で示された.GLP-1の動脈硬化抑制作用に期待が高まっている.

キーワード
GLP-1、膵島、DPP-4、大規模臨床試験、心血管疾患

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臨床
診断・病態 1.高齢者における糖尿病の薬物治療

佐藤 優洋* 山田 祐一郎**
*  秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学講座 ** 同教授

要  旨
 我が国における高齢者の糖尿病患者は増加傾向にあり,この治療をいかに行っていくかが今後の重要な課題の1つである.高齢者の糖尿病患者は無自覚低血糖や基礎疾患の併存が多く,認知機能の低下に伴い治療アドヒアランスが低下しやすいなどの特徴がある.近年,高齢者糖尿病のコントロール目標が設定されており,各糖尿病治療薬の特徴を十分理解しながら,個々の患者に応じて治療目標を設定することが重要と考えられる.

キーワード
高齢者糖尿病、高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会、
SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会からのRecommendation

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臨床
診断・病態 2.低血糖と心血管イベント,認知機能

後藤 温*
* 国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部

要  旨
 メタ解析結果によると,重症低血糖の既往のない人に比べて,重症低血糖の既往があると心血管疾患リスク,認知症リスクともに約2倍であると報告されている.年齢,認知機能,身体機能,併存疾患などに留意しつつ,個別に適切な血糖コントロール目標を定めて診療に従事することが大切である.さらに,重症低血糖が危惧される場合には,目標下限値を設定し,安全な治療を心掛けることが重要であろう.

キーワード
糖尿病、低血糖、心血管イベント、認知症

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臨床
治療 1.糖尿病食事療法 ―「食品交換表」に準拠したカーボカウントと適切な糖質調整食への展開―
石田 均*

* 杏林大学医学部第三内科(糖尿病・内分泌・代謝内科)教授
要  旨
 栄養指導のカーボカウントは,食事の中の糖質量を正しく把握し,その適正化を図る「基礎カーボカウント」と,さらにインスリン療法の場合に,糖質摂取量に合わせてインスリンの単位数を調整する「応用カーボカウント」からなる.しかしながら,この方法は糖質量を的確に計算して食後血糖を適正に制御するためのものであり,決して糖質制限を目的とするものではないことに留意すべきである.    

キーワード
糖尿病食事療法、カーボカウント、糖質用インスリン、補正用インスリン、糖質調整食

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臨床
治療 2.糖尿病における運動療法
田村 好史**1*2 加賀 英義*1 染谷 由希*1 筧 佐織*1

*1  順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター **1 同准教授
*2  順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス 教授

要  旨
 糖尿病の運動療法は,食事療法,薬物療法とともに三大療法の1つとしてとらえられている.運動の効果は急性効果と慢性効果に分けられ,その両者の効果で血糖降下作用が得られる.また,運動の種類には有酸素運動とレジスタンス運動があり,禁忌でなければ両者を行うことが勧められている.運動の実施にあたっては安全性について注意を要するが,歩行程度の身体活動を制限する例はまれである.

キーワード
有酸素運動、レジスタンス運動、インスリン抵抗性

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臨床
治療 3.経口血糖降下薬にかかわる最近のエビデンス
宮 愛香* 三好 秀明**

*  北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室内科Ⅱ ** 同 診療准教授
要  旨
 糖尿病治療薬の選択肢はここ数年で多様化し,薬剤間の比較や併用療法の有効性・安全性に関する大規模臨床研究の結果が数多く報告されている.最近ではSGLT2阻害薬やGLP?1受容体作動薬の心血管イベント二次予防のエビデンスが次々と発表され,薬剤の血糖改善効果のほかに心血管保護作用が期待され話題になっている.本邦で使用可能な7種類の経口血糖降下薬に関する最近のエビデンスについて紹介する.

キーワード
経口血糖降下薬、SGLT2阻害薬、心血管イベント、腎保護

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臨床
治療 4.インスリン製剤にかかわる最近のエビデンス
松久 宗英*

* 徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センター センター長
要  旨
 インスリン製剤の進歩により,その導入は簡便になってきた.特に,基礎インスリンとして長く平坦な作用を持つ持効型インスリン製剤,追加インスリンとして効果発現が早い超速効型インスリン製剤がその推進を担ってきた.これらのインスリンはさらにその特長を改良し,臨床に貢献している.これからは,適切な導入とステップアップのタイミングを示し,低血糖と体重増加に配慮した安全な強化レジメンとともに,高齢者に向けたステップダウンレジメンを明らかにすることが重要である.

キーワード
ORIGIN試験、DEVOTE試験、重症低血糖、インスリン導入、高齢者

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臨床
治療 5.GLP-1受容体作動薬にかかわる最近のエビデンス
佐藤 大介* 前川 聡**
*  滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科 特任助教 ** 同教授
要  旨
 GLP-1受容体作動薬は,血糖降下作用以外に抗動脈硬化作用を有することが基礎研究で明らかとなり,糖尿病血管合併症の進展抑制効果が期待されてきた.近年,心血管疾患高リスク2型糖尿病患者を対象とした大規模臨床研究の結果が相次いで報告され,GLP?1受容体作動薬は心血管イベントを抑制することが明らかになってきた.細小血管障害に対しては,腎症リスク低下,網膜症リスク増大と,異なる結果を示した.

キーワード
GLP-1受容体作動薬、大規模臨床研究、心血管疾患、細小血管障害

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臨床
治療 6.1型糖尿病治療最前線
金綱 規夫* 今川 彰久**

*  大阪医科大学内科学Ⅰ糖尿病・内分泌内科 ** 同教授

要  旨
 1型糖尿病ではインスリンの補充が治療の中心となるが,頻回注射療法と持続皮下インスリン注入療法に大別される.頻回注射療法は,インスリン製剤の多様化により質の高い治療法に変化しつつある.持続皮下インスリン注入療法も,インスリンポンプとグルコースセンサーの開発により,血糖を自動で制御するクローズドループ型人工膵臓が開発されるなど,大きく発展しつつある.

キーワード
1型糖尿病、持続血糖モニタリング、持続皮下インスリン注入療法、SAP、人工膵臓

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臨床
治療 7.糖尿病チーム医療最前線
南條 輝志男*1 古田 浩人*2

*1 和歌山ろうさい病院 病院長 *2 和歌山県立医科大学内科学(Ⅰ)准教授

要  旨
 我が国では糖尿病患者が急増しているが,糖尿病専門医の数は限られていることから,高度・良質な糖尿病診療の均てん化のために,専門医と非専門医による「病診連携」および質の高いスタッフとの「チーム医療」が展開されている.今や不可欠な存在となっている糖尿病療養指導士(CDE)と療養指導の現状と課題(特に多様性に富んだ高齢患者対応と,治療中断対策としての治療・就労両立支援)を中心に概説したい.

キーワード
チーム医療、CDE(J/L)、超高齢社会、治療・就労両立支援、口腔ケア

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痛みのClinical Neuroscience
(33)運動器の痛み3.姿勢変化と骨粗鬆症 ?メカニズムとマネジメントの実際?
渡邉 和之*   矢吹 省司**

*福島県立医科大学医学部整形外科学講座 学内講師 ** 同教授

要  旨
 高齢者における脊柱後弯の増強を主体とした姿勢の変化は,腰背部痛の原因となりQOLを低下させる.加齢に伴って後弯変形は進行し,背筋力の低下は後弯変形の要因となる.また,骨粗鬆症が基盤となる椎体骨折の発生は,局所での後弯変形の原因となり姿勢異常を悪化させる.後弯変形の治療や予防には,背筋力強化を中心とした運動療法が有効である.骨粗鬆症性椎体骨折の予防や治療は,高齢者の姿勢異常の診療で重要である.

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トピックス
産後うつ病の検診について ―エジンバラ産後うつ病自己評価票の正しい使い方―
北村 俊則*1*2*3*4

*1 北村メンタルヘルス研究所 所長 *2 こころの診療科きたむら醫院 院長
*3 北村メンタルヘルス学術振興財団 代表理事
*4 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野

要  旨
 産後うつ病のスクリーニングを産科臨床で行う場合,エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)日本語版を用いることが推奨されることが多い.EPDSの陽性的中率は50%であり,陽性者の半数はうつ病ではない.SCIDなどの構造化面接で診断を確定させる必要がある.陽性者を精神科の専門医療機関に紹介するには,事前に患者との信頼関係を構築する技法が必要となる.

キーワード
産後うつ病、スクリーニング、エジンバラ産後うつ病自己評価(EPDS)

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第54回 2017年度ベルツ賞受賞論文1等賞論文
フォワード・ジェネティクスによる睡眠制御とその障害の解明

柳沢正史**1  船戸弘正*1*2
*1 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授(WPI?IIIS) **1 同機構長・教授
*2 東邦大学医学部解剖学講座 准教授

要  旨
 Sleep is conserved from invertebrates to vertebrates. In mammals, sleep is classified into rapid eye movement sleep (REMS) and non?REMS (NREMS), which are tightly regulated in a homeostatic manner. Since sleep plays a crucial role in maintaining mental and physical health, it is an important research target from the basic and clinical points of view. Our reverse genetic research on mice deficient for the neuropeptide orexin revealed an unexpected role of orexin in sleep/wakefulness and the pathogenesis of narcolepsy. Moreover, orexin receptors are attractive targets for the treatment of insomnia, already resulting in the successful development of a clinically approved novel hypnotic. Recently, optogenetic and pharmacogenetic techniques have enabled researchers to identify specific neuronal groups and circuitries switching between sleep/wakefulness states. However, the molecular and cellular mechanisms driving these switch circuitries and regulating sleep/wake behaviors remain unknown. To elucidate novel sleep?regulating genes, we took a large?scale forward genetic approach by conducting an electroencephalography/electromyography?based screening of randomly muta-genized mice. We established the Sleepy mutant pedigree showing increased NREMS time, and the Dreamless mutant pedigree showing reduced REMS. We found that Sleepy mutant mice had a splicing mutation in the Sik3 protein kinase gene, which results in an increase in the inherent sleep need. Sik3 orthologues regulate sleep?like behaviors also in fruit flies and roundworms, suggesting a highly conserved role of Sik3. Dreamless mutant mice have a missense, gain?of?function mutation in the sodium leak channel NALCN, which results in altered excitability of REM?off neurons. Our results substantiate the utility of the forward genetics approach for studying sleep behaviors in mice, and demonstrate the fundamental role of SIK3 and NALCN in regulating the amount of NREMS and REMS, respectively.
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